●アニータ・ブルックナー「英国の友人」
アニータ・ブルックナーの「英国の友人」を読むのだが、これもまたすばらしい一冊。
書店を経営するレイチェルと、サッカーくじで大きな財産を当てたリヴィングストン家の交流。オスカーとドリーの夫婦は、財産を得ても純朴に静謐に生きる。ほとんど引きこもりとでも言ってもいい。世間の厳しさや生きることの辛さと戦うレイチェルはそこが少々歯がゆいながらも、リヴィングストン家との交流を続ける。ヘザーはオスカーとドリーの一人娘。やはり彼女もある種浮世離れした感じ。レイチェルが世の中の厳しさを諭してもそれを意味あるものとして受け入れることはできない。絶対に超えられない境界。超えようとしても、理解しようとしても、それは叶えられない。お互いに。
「秋のホテル」で感じた諦念がここにも現れる。しかしここでは前向きな諦念というものは感じられない。ただ、諦念というものは、前向きでないとしたら、単なる諦念となる。なんらの価値付けを持たない諦念。無色無味の諦念。諦念にマイナスの価値を付与したとしたら、それは絶望という言葉に姿を変えるだろう。
それにしても相変わらず冷静な心理の検討。複雑な文様を施した絵画を見ている気分。そして細部にわたる描写の細かさ。登場する多くの「もの」の描写が映像的で秀逸。ほとんど映画を見ている気分。だが映画化は難しいかも知れない。同じブッカー賞を取った「日の名残り」とは本当にタイプが違うから。
ちなみに、原題はA friend from Englandである。なぜAn English Friendではないのか、と思ったのだが、それは最後に分かる。
いずれにせよ、端から見れば幸せで充実した生き方をしていると見られるのだろうけれど、自分としては常に生き方に満たされないと思っている方にはおすすめ。答えは与えられないが、セラピーにはなるのだと思う。