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2004年08月19日

●辻邦生「時の扉」

「時の扉」を読むのは、たしか3回目になると思います。

1977年に毎日新聞社から出版されていますが、元は毎日新聞の連載小説でした。これを新聞で読むことができただなんてうらやましいものですね。

大学教員で詩人でもある矢口忍が、とある女性を裏切って死に至らしめてしまうわけですが、その後の再生の物語と言うことができると思います。

あらすじ

(ネタバレ注意)


矢口は公開講座の生徒だった、卜部すえという女性とつきあい始めるわけですが、この卜部という女性は実にかわいらしく、そしてけなげに描かれています。矢口もやはり卜部をかわいがるようになり、まあ恋に落ちていくわけですね。矢口は詩集を出版し、詩人として脚光を浴び始めると、詩劇の制作を始めるわけですが、そこに現れる女優の梶花恵という女性に惹かれていく訳です。梶は、卜部すえとは正反対の女性で、強く積極的でそして美しいわけです。矢口は、梶をまるでミューズのように勘違いしてしまい、ついには結婚までしてしまうわけですが、生活が成り立つ訳もないわけです。いっぽう矢口のことを真剣に愛していた卜部は、矢口のことをあきらめられずに、ついには自殺をしてしまいます。矢口は大きなショックを受け、梶と離婚し、北海道の高校の教員として、自らを罰する生活を送ることになります。

大学時代の知り合いの考古学者である江村に誘われて、シリア砂漠で遺跡の発掘へと向かいます。ここで、生きると言うことを再認識し、徐々に再生へと向かっていくわけです。

80種類もの香辛料を使うシリアの人々に生きることへの情熱を感じたり、フランスの考古学チームの発掘方法に、生きることを大切にすることを感じたり。あるいは、砂漠のなかで生きることと死ぬことを感じたり。また、フランスのチームに同行していた鬼塚しのぶという女性との出会いがあったり。少なくとも言えることは、生きることこそが、最重要である、ということです。

「(日本人の男は)人生のぎりぎりの場所で逃げていると言うことなんです。どこかごまかしているところがあるんです。ごまかすと言って悪ければ、曖昧にしたまま、と言い直してもいいと思います。(中略)でも人間が死に立ち向かったとき、本当に考えなければならない問題を、心のなかに持つことがないんです」

もちろん、皆が皆そうではないでしょうが、思い当たるふしがなくもないところが辛いですね。自虐的になるわけでもないのですが、そういうことも常にかんがえなければならないでしょう。本当に人生のぎりぎりのところでいきているかどうか?と。仕事が人生のぎりぎりの位置にあるのならばそれでいいのでしょうが、そういう人はきっと幸福な人だと思います。


この小説は全集に入らないのですね。残念です。

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