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2004年08月30日

●佐々木譲「ワシントン封印工作」

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日米開戦前のワシントンを描いています。日米交渉が袋小路に入っていく様は、読んでいてもどかしいぐらいです。日米の交渉が同じ方向を向こうとしているにもかかわらず、コミュニケーションを取りきることができず、ほとんど誤解と手違いで開戦へと大きく舵が回っていく様子は慄然とします。それから、大使館の風情ですね。この脳天気な雰囲気は常に既視感を伴います。歴史は繰り返すとでも言うのでしょうか。三角関係は、置いておくとしても、実に面白い一冊でした。

2004年08月29日

●佐々木譲「エトロフ発緊急電」

ベルリン飛行指令の続編です。
今回は純粋なるスパイ小説となっていました。もちろん当時の国際情勢や軍事情勢を下敷きにしています。
単冠湾に集結した機動部隊のエンジン音がよく聞こえました。

日本推理作家協会賞受賞作全集(62)

2004年08月28日

●プロヴァンスの恋(1995)

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ジュリエット・ビノシュ主演。イタリアからの亡命騎兵大佐アンジェロと、侯爵夫人ポーリーヌとのプラトニックな恋愛模様。部隊はプロヴァンスで、おりしもコレラの流行に見舞われていました。街は軍隊によって封鎖されていますが、アンジェロとポーリーヌは封鎖を破りポーリーヌの領地を目指します。

コレラの蔓延に恐怖を覚える人々が痛ましくてなりません。これはどこにでも見られるものです。カミユの「ペスト」も思い出しますし、つい先だってのO157、狂牛病、SARS、鳥インフルエンザしかり。人間は理性的な動物であるといわれますが、そうあれればいいのに、とおもいます。

プロヴァンスの美しい風景が心にしみこみます。二人の恋愛は、「プラトニック」と言われているように、表だったものとまではいきません。抑制された感情の美しさです。

ビノシュは美しいのですが、髪型がちょっと似合っていなかったかも知れませんね。「ショコラ」で見ることのできた、妖しげな美しさのようなものが見られなかったのが残念でした。

2004年08月26日

●アニータ・ブルックナー「秋のホテル」

この本を手に取ったのは、あまり深い訳があるわけでもなく、作曲家のブルックナーと同じ名字だな、ぐらいなものでした。半分ジャケット買いのようなノリでした。

読み始めた段階で、自分の嗅覚に敬意を表することになりました。静謐で内省的な文体。主人公のイーディアス(彼女もやはり小説家なのですが)の意識や感覚がとてもくっきりと描かれていますし、描写も抑制をきかせながらも、実に的確でした。特にお金持ちの生態を描くことにかけては、鋭敏な感覚を持っているようで、彼女たちの姿が目の前に浮かぶようです。自信と美しさに満ちあふれ、ある種傲慢にも見える彼女たちに、イーディアスは憧れを感じます。そして、一度はその世界に足を踏み入れようとする決断をするのですが、最後はどうなるのでしょう??

ウサギとカメの寓話が語るように実世界ではカメが勝つことなどなく、やはりウサギが勝つことになるのだ、という妙な悟りがリアルでした。われわれはカメが美徳であるかのような教育を受けてきたわけですが、必ずしもそうではないのではないか、という、ある種自嘲的な悟りです。イーディアスは、それでもやはり自分がカメの世界の住人であることを悟りますし、自分が書く小説の読者もやはりカメの世界であると、悟ってしまうわけです。悟りといっても、そんなに深刻なものではありません。ほんのちょっとした思いつきレベルなのですが、そのくだりがとても印象的でした。

自分らしさ、とか、自分探し、などと言いますが、それはそんなにきれいなものではありません。ただ、最後は、登場するお金持ち女性のように、ある種脳天気に生きているほうが勝ちのではないか、ウサギはやはり速かった、ということになるのではないか。孤独感もあるでしょうが、それ以上にここには諦念があるように思えます。それも前向きな諦念です。

2004年08月23日

●佐々木譲「ベルリン飛行指令」

前から気になっていた本だったのですが、ついに読むことができました。零戦がドイツまで飛んだ、という仮想歴史小説です。もちろん、ひとっ飛びに飛べるわけはないので、当時日本が占領していた北ベトナムから、東インド、西インド、イラン、イラク、トルコ、といった具合に飛び石を渡るように飛んでいくわけですが、インドからイラクは当時は英領ですから、そうそう降ろしてくれるわけはありません。反英闘争に従事する民族主義者達の支援を取り付けて、零戦の補給を行ったという設定です。

やはりこの手の小説は面白い。寝食を忘れてついつい読み続けてしまいます。

2004年08月22日

●秋庭俊「帝都東京・隠された地下網の秘密」

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常々不思議だったことがあります。


  • どうして、銀座線と浅草線が中央通りと昭和通りで併走しているのか?

  • 半蔵門線と銀座線が青山通りの下で併走しているのか?

  • 東西線神楽坂駅や有楽町線麹町駅、同じく有楽町線銀座1丁目駅は、ホームが上下に配置されているのか?

  • なぜ京王線と都営新宿線は地下で併走しているのか?

  • 赤坂見附と永田町の長大な連絡通路はなに?

  • 二重橋駅と日比谷駅の上にはどうしてあんな長い連絡通路があるのか?

不思議なことはたくさんあるものですが、そうした疑問に回答を与えてくれる本です。たかが地下鉄と侮るなかれ。ここに隠されているのは近代日本の歴史の暗闇なのです。

ほとんど推理小説やミステリーのような展開にページをくる手もついつい早まってしまいます。

2004年08月21日

●ダニエル=フィリップ・メイソン「調律師の恋」

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これは面白いです。

ビルマ(ミャンマー)の奥地へとピアノ調律へ向かう調律師の旅。ロンドンからの出発、地中海、紅海、アラビア海、インド、ラングーン、マンダレー。目的地には、ジャングルの奥地で、ピアノを弾き、笛を吹きながらイギリス軍の砦を守る軍医がいる。目的地までの旅。目的地での出来事。そして、目的地からの旅。

植民地時代のイギリス人を通して語られるビルマの風物は、もしかしたらなにかの色眼鏡がかかっているのかも知れません。ですが、それでもやはり情緒豊かです。物語としても実に面白いです。物語の良さを堪能することができます。小さい頃ロビンソン・クルーソーを読んでわくわくした、あの気持ちです。

ちなみに、原題はThe Pianotunerです。「恋」という言葉を入れるあたり、うまいものですね。