●ジョン・ラチェスター「最後の晩餐の作り方」新潮クレストブック
取っつきにくい本というものがある。最初なかなかその小説世界に入っていけない。どうにかこうにか我慢して、やっとそのペースをつかむことができる。ようやくと波に乗れたような感じ。
この本はまさにそういう本。もちろん和訳されているという観点もあるだろうが、この本の語り口に乗ることができたとたん、面白みは増してくる。
料理の蘊蓄本と思っていると、その語りの端々に現れる語り手の尋常ならざる素顔。いつしかある新婚カップルの追跡尾行をしていることが明らかになり、最後は二人を別荘に招く語り手。そして、他の人々と同じく…。
おそらくは、人間は知識に対する尊敬とコンプレクス両方を持つことになるのだが、我々読み手は、語り手の料理にとどまることのない知識の広さに幻惑され圧倒され平伏することになるだろう。
傑作なのはプルーストを下敷きにしたと思われるこの一説。
「平和と幸福は、地理的に見て、料理にニンニクが使われる場所から始まると言っても過言ではない」こう語ったのは英仏料理界の橋渡し役をつとめた英雄でありながら『ラルース料理百科事典』にはなぜかその名の記されていないX・マルセル・プルースタンであります。
その後、この章には「土地の名」とか「マルハナバチ」が登場する。
いずれにせよほんとうによく考えられた小説だ。5年かけて執筆したというのだから。執筆者とおなじく訳者も賞賛に値するだろう。この日本語の微妙な語り口はなかなかおもしろいはずだ。
ISBN 4-10-590022-6
