●グッバイ・レーニン(2003)
東京に出るのはもう2ヶ月ぶりぐらいになるかも知れない。4月は忙しくてなかなか遠出をする機会もなかったのだ。そして、昨年11月頃から前売り券を買っていて、本来ならばもっと前に見ているはずだった「グッバイ・レーニン」をやっと見ることができた。
前評判が高かったこの映画、確かにすごい。おもしろい。笑いが止まらない。興味深い。
自由化要求デモに参加したアレックスが検挙される場面を見た熱心な党員である母親は心臓発作で倒れてしまい、8ヶ月間も昏睡状態に陥る。その間、ベルリンの壁は崩壊し資本主義経済と「自由」が流入する。目が覚めた母親に些細な刺激をも与えてしまうと、再び発作が起き命の危険も。そこで、アレックスは壁崩壊や資本主義流入を母親から隠そうと奔走する。もう手に入らない東ドイツ時代の食品を探し求め(ゴミ箱をあさってまでも)、ニセのニュース番組を作ったり…。そのうちに、かつて亡命した父親の消息がわかって…。
失われた東ドイツを見ることができるということでも史的価値あり。アレクサンダー広場、トラバント。特にトラバントはもうあまり見かけない。少なくとも1999年の東ベルリンと、2001年のドレスデンではほとんどお目にかからなかった。
ニセのニュース番組を作る場面は圧巻。アレックスの仕事仲間デニスが映画監督の卵という設定で、あの手この手をつかって壁崩壊後の東ドイツで、社会主義的ニュースを捏造する。その手口のおもしろいこと!パロディが好きな僕のツボにぴったりはまって、座席で身をよじって笑い続けた。
細かいディテールも最高。ドイツのタバコWESTの飛行船やら、シュパルカッセというドイツの銀行(アレックスが東ドイツマルクの換金を断られるシーン)、そして、レーニン像をつり下げているのはおそらくは旧ソ連製のMI-8というヘリコプター。アレックスの母の部屋には、ゲバラの肖像。そのほかいくらでも見つかるだろう。ほんとうに興味深い。監督のマニア道が細かいところにまで行き届いている感じだ。
いずれにせよ、急激な統一にとまどう人々の姿には胸が痛む。これまでの価値観の変換を迫られたのだから。まじめに働いてへそくりを貯めたというのに、それがただの紙切れになるというのだから。これはもう不条理の世界。戦後まもなくの日本と同じなのだろう。いずれにせよ、壁崩壊から15年が経とうとしている。あのころは、まさに資本主義の勝利、自由主義の勝利という、圧巻的楽観的な空気に世界が包まれていた。けれども、もちろん理想の社会というモノはいまのところまったく実現していない。それどころか、世界は新たに難しい問題に直面している。それも、かつての東西冷戦に勝るとも劣らない問題に。そうした時代の雰囲気の中で、この映画はチクリと何かを刺して行ったのだと思う。映画で作られるニセニュース番組では、資本主義から逃れてきた難民が東ベルリンに難民として流入している、と語られる。今や、現実とも虚実ともつかない内容になってしまった。否、今は逃げ場所はないのだから、もっと悪いか…。
グッバイ・レーニン公式ページ(ドイツ語)
監督:ヴォルフガング・ベッカー
制作:シュテファン・アルント
音楽:ヤン・ティルセン
出演:ダニエル・ブリューム、カトリーン・ザース、チュルパン・ハマートゥヴァ、マリア・シモン他
(★★★★★)
