●ナンシー・ヒューストン「天使の記憶」新潮クレストブック
サン・ルイ島の北側、セーヌ右岸一帯がマレ地区。シテ島に近いことから14世紀以降開発が進み、16〜17世紀には壮麗な館が建ち並ぶ貴族街となり、今も当時の館が数多く残る。ユダヤ街があり現在ではゲイ専門店も並ぶある種のマイノリティの街。マイノリティだからこそ認識できることが数多くあるはず。
そして、パリの二人のマイノリティが愛し合ったのもこのマレ地区。主人公のドイツ人サフィーの不倫の相手は、ハンガリー人の亡命楽器職人アンドラーシュだった。サフィーの夫は天才フルート奏者で、セーヌ左岸、おそらくはサン・ジェルマン・デュプレ界隈に暮らしているのだ。サフィーは息子エミールともに、ゲルマント公爵のアパートがあったセーヌ左岸から、アンドラーシュの住むマレへ通い続ける。
この物語の対旋律に流れるのは、第二次大戦の記憶、そしてアルジェリア戦争の現実。サフィーもアンドラーシュもやはり記憶と現実に苦しみ続ける。
そうした二人の運命は、読者にとってある意味では自明のこと、だ。
(★★★★☆)
ところで、数年前偶然にもマレ地区のホテルに泊まった。マレ地区界隈の写真を載せてみよう。ただ、ユダヤ人街からは少々離れている。リヴォリ通りをセーヌ川方面へ少し行ったところ、だ。

