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2004年05月01日

●辻邦生「小説への序章」より『物語と小説のあいだ』

辻邦生先生のパリ時代小説論考察の結実。辻先生の文学の原点がここに纏まっているといっても過言ではないだろう。
第1章「物語と小説のあいだ」は、昭和36年6月『近代文学』にて発表されている。もう40年以上も前のことだ。当時から「小説」の危機が叫ばれていたわけだが、その中で物語性と小説についての考察を行い、小説の可能性を探ろうとしている。古代においては事実伝聞の手段であった物語が、やはり近代認識の中で事実を伝える役割を担った小説となっていくわけだが、主観と客観の分離した社会にあっては、


市民階級が知的空間の「無色な、冷たい、無関心」な事物に対して、十全に相互浸透する一体感を喘ぎ求めはじめる

ということになるのである。
辻邦生「小説への序章」1976、河出書房新社 38ページ
ここで小説に求められる一つの要素として小説において「感動の伝達」という機能が求められ始める。これは、市民社会において個人化してしまった現代人にとって必要な「感動の共有」のひとつの意味となるのである。

確かに、映画やテレビや漫画が発達した現代において小説が果たすべき積極的な役割というのはよくわからなくなっている。昭和37年においては、確かに「感情の伝達」の機能を有する小説形式の意義もあったのだろうが、現代にそのままこの考えをスライドするのは少し難しいのかもしれない。だが、小説の有する物語性は、映画やテレビや漫画に確かに受け継がれていて、「感動の共有」を具現化している。物語性は今後も廃れることはないだろう。だが、これから考えていかなければならないのは文学としての小説の意義である。

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